「なぜ喫煙者はコロナに感染しづらいのか」に注目、

 これはPRESIDENT Onlineの記事だが、分かりやすく中々興味ある内容だった。

 「なぜ喫煙者はコロナに感染しづらいのか」広島大学が発見した意外なメカニズム
  https://president.jp/articles/-/51173

 「たばこは、感染後の重症化リスクを高めるが、感染するリスクを低下させる効果があるのではないか、という仮説を立てたところ、治療薬につながる意外なメカニズムがわかった」

 1.新型コロナウイルスが人体に感染するメカニズム
 
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   新型コロナウイルスがヒトの体内に入ると、表面にある突起状のトゲトゲ(スパイクたんぱく質)が、細胞膜の表面にある「ACE2受容体」にぴったりとくっつき、体内にウイルスが侵入するための“ドア”になる。

   細胞膜にあるたんぱく質の分解酵素「TMPRSS2」が、ウイルスのスパイクたんぱく質を適切な位置で切断し、ウイルスと細胞が融合して細胞内に侵入、自らの遺伝物質(RNA)を注入することで、細胞を「工場」としてウイルスを大量に自己複製する。

 2.たばこ煙成分の働き

   たばこの煙成分を抽出し、生理食塩水に溶かし込んだ液体をヒトの細胞にかけてみると、ACE2遺伝子の発現量が減少、たばこの煙成分が「AHR(芳香族炭化水素受容体)」を活性化させACE2の発現を抑制していることが判明、

 3.AHRという受容体を介して『ドア(ACE2)』の量を減らす

   胃潰瘍の治療薬として使われている「オメプラゾール」、ブロッコリーなどに含まれる「トリプトファン代謝物」がAHRを活性化させる

   ヒト細胞の培養液にAHRを活性化する化合物(オメプラゾールまたはトリプトファン代謝物)を加えた状態で、新型コロナウイルスを感染させた後、細胞内に入り込んだ(感染した)ウイルス量を比較した結果、化合物の濃度が高くなればなるほど感染ウイルス量が低下することを確認

   オメプラゾールやトリプトファン代謝物によってAHRが活性化することで、ウイルス受容体であるACE2発現量を抑制し、その結果としてウイルス感染量を減らすことができる。

   最大の特徴は、新型コロナウイルスの感染受容体という「ドア」の数を減らすメカニズムを利用している点、中和抗体など抗体を利用した薬の場合、特定のウイルスに対して効果を発揮するため、変異株などウイルス自体が変化してしまった場合、効果が低下する可能性があるが、この治療薬は、「ドア」自体を減らすため、たとえウイルスが変異しても対応することができる。


 「感染予防または感染初期の軽症患者に投与することで重症化を防ぐ薬」として期待してしまう!

 ところで、ACE2そのものの本来の働きは何なのか?

 秋田大学のページの「コロナウイルスの解明について」の中でACE2の働きに触れていた。
   https://www.akita-u.ac.jp/honbu/lab/vol_51.html

   「ACE2」とは、血圧を上昇させる作用を持つアンジオテンシンⅡというホルモンを分解し、血圧を降下させる働きをする酵素
   この「ACE2」の酵素活性が、SARSの重症化や重度の肺炎、心不全を抑えることができる。

   一方でACE2はウイルスに感染させる受容体という二面性を持っている謎の酵素

   ACE2は肺だけでなく消化管、腎臓、心臓、血管にも発現し、血圧を上げたり肺炎を悪化させるアンジオテンシンⅡをACE2が分解して血圧を下げたり炎症を抑える作用がはたらく一方で、ウイルスが先に侵入してしまうとその役割が果たせなくなる。


 さらに、「新型コロナウイルスの第二の受容体が発見される」という困った記事も、
   https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info27.html

   ACE2が、ウイルスが細胞に入るためのドアの鍵であるとしたら、Neuropilin-1 はウイルスをドアまで連れてくる案内人、ACE2は大抵の細胞で低いレベルでしか発現されていないので、ウイルスがドアを発見するのは容易ではない。Neuropilin-1などの、他の因子が、これを助けてあげる必要がある。

   Neuropilin-1とSpikeタンパクとの結合を阻害するモノクローナル抗体や薬剤により、細胞レベルでのSARS-CoV-2の感染を抑制することができたと報告、

 新しい予防薬や治療薬の道が増えたような気がする。
 キーワードは”ACE2”と"Neuropilin-1"、